研究内容

 高分子化合物は,プラスチックやゴムなどの汎用材料だけでなく,電子機器や自動車,航空機,医療の分野などを支える高機能性材料として幅広く用いられています。これらの高分子化合物の多くは,炭素―炭素二重結合を有する化合物(いわゆるビニルモノマー)を高分子量化(連鎖重合)させることで得ることができます。連鎖重合は,高活性な成長種とモノマーが反応を繰り返し,重合条件によっては,数百~数千のモノマーが一瞬にしてつながり一つの高分子となります。反応の選択性や規則性を極めて高度に制御することができる非常に興味深い化学反応です。しかし,今の重合技術でも合成できない高分子は多数存在し,それらは未知なる化学的・物理的性質を示す可能性があります。
 そこで本研究室では,独自の重合触媒や新規モノマーを開発し,そのフロンティアを切り開くことを目指します。具体的には下記の課題に取り組んでいます。

1. ルイス酸・塩基(ルイスペア)触媒による新たな重合活性種の生成

 新しい重合活性種の創出は,基礎的でかつ大きな可能性を秘めた研究課題です。私たちは,ルイス酸と塩基から成るルイスペア触媒に着目し,その可能性を探求しています。ルイス酸と塩基を混合すると安定な付加錯体を形成すると考えられてきましたが,近年では,かさ高い置換基や電子状態によってはそのルイスペアが高活性な触媒として機能することが分かってきました。私たちは,特に成長末端に結合するルイス酸が大きな役割を果たすと考え,様々な遷移金属トリフラート類や,かさ高いボラン誘導体,かさ高いイオン性ルイス酸を用い,各種モノマーに有効な触媒を明らかにしてきました。例えば,オリジナルなルイスペア触媒PPh3/Cu(OTf)2が高活性なラジカル重合を進行させることなどを明らかにしています。

2. 二官能性モノマーの化学選択的重合

 二つの官能基を有するモノマーを片方のみ選択的に重合させることができれば,高分子材料として需要のある反応性高分子を合成することができます。しかし,現在の重合技術でも達成できない選択的重合は数多くあります。私たちはそれらの中でも,アクリロイル基,活性プロトン,シクロプロパン環などを有するモノマーの選択的重合を検討しています。例えば二重結合とシクロプロパンは二重結合のみ選択的な開環メタセシス重合が進行し,高分子反応可能なシクロプロパン含有ポリマーを合成できます。また,触媒条件を考えれば,反応性が類似の官能基を有するモノマーも選択的重合が可能ではないかと考えています。

3. 水界面における重合加速効果

 乳化重合や懸濁重合など水を溶媒に用いたラジカル重合系は,工業的に最も重要な高分子合成手法の一つです。重合は高活性で進行しますが,不均一系であるためその反応機構は複雑です。私たちは,界面において水分子の水素結合性の高さが極性モノマー類を活性化するという仮説を立ており,その実証を行いたいと考えています。有機合成化学分野においては,このような”on-water”の考え方が知られており,水の界面における水素結合は,最も環境低負荷な分子活性化手法と言えるでしょう。

4. 新しい環状炭化水素モノマーの重合とシクロオレフィン(コ)ポリマーの合成

 私たちは,安価な化学原料を出発として数段階で合成することができる炭化水素系化合物で,これまで重合性モノマーとして着目されていない有機分子がまだまだ多数存在すると考えています。それらを掘り起こし,モノマー合成の確立から,高分子量化さらに高分子材料へと展開したいと思います。モノマー骨格に応じた重合手法(配位重合,開環メタセシス重合,イオン重合)を適切に選択し高分子量化させます。得られたポリマーは,環状構造に起因した高耐熱性(高いガラス転移と分解温度)が期待できます。また,透明性や光学的性質(屈折率や複屈折率),結晶・非晶性を調査し,分子構造と性質との相関を明らかにすることで,光学や医薬包装分野で重要なシクロオレフィンポリマーの開発に貢献します。

5. 高活性な配位重合触媒の開発

 Ti錯体触媒によるオレフィンの配位重合は,化学反応の中で最も触媒活性(回転数)が高く,さらに立体規則性などの選択性も極めて高く制御することができます。そのためには,触媒の設計を極めて精密に設計することが最も大切です。私たちは,ノルボルネン系モノマーの(共)重合において,活性や共重合性,化学選択性,官能基や化学耐性に富む次世代の重合触媒の開発を目指します。

松岡真一研究室

名古屋工業大学 工学部 生命・応用化学科 ソフトマテリアル分野 /
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